05 Aug
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エドワード・ウエストンが最も敬愛するアメリカの写真家だとすれば、最も尊敬するアメリカ人映画監督はスタンリー・キューブリックだと思う。  

キューブリックが「LOOK誌」の専属カメラマンとしてキャリアをスタートしたことは知識では知っていた。けれどもこれまで、1940年代後半から50年代前半にかけて撮られた彼の写真を観る機会はほとんどなかった。それが今回、未開公開作品も含め、一挙に展示されることになった。

ニューヨーク市ブロンクス出身のキューブリックが、マンハッタンに本社を置くLOOK誌に雇われたのは17歳の時(最初は自分で売り込んだと聞く)。当然、ニューヨーク市や近郊で撮られた作品が多い。そして雑誌の性格上、市井の人々を写した作品が多い。ニューヨークに移り住んで20年以上になる自分にとって。これまではるか遠い存在であり、ただ尊敬の対象でしかなかったキューブリックが、より身近な存在に感じられた。  

構図やアングル以前に、何より目を見張ったのは作品の成熟度だ。とても17歳の少年が撮る写真には見えない。17といえば自分は覚え始めた麻雀に夢中で、職業はおろか進学先さえも決まっていなかった。何たる違い。一方、キューブリックは少なくともアーティステックな面において、この歳ですでに明確なビジョンを持っていたように思う。それでなくては、このような60年後に見ても全く色あせない作品の数々を生み出せるわけはない。

さらにこの展覧会で発見したのは、彼の初期の映像作品が、いかに写真家時代の経験に影響を受けているかという点だ。コロンビア大学特集で撮った科学者の写真なんか、「Dr. Strange Love(博士の異常ない愛情)」のスチール写真かと思ったくらい。またキューブリックが映像の世界に入るきかっけとなったのは、自主製作したボクシングのドキュメンタリーであるけれど、その主題とはカメラマン時代に出会っている。つまり、すべてはつながっているのだ。それを今回、はっきりと肌で感じることができたことは大きな収穫だった。批評家などが年表的に映画と写真との関連性を説明したとしても、こういう形で「納得」することはできなかったと思う。本当に来てよかった。

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スタンリー・キューブリック写真展("Through a Different Lens")は、ニューヨーク市立博物館で2018年10月28日まで開催中。

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